全農
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 緑茶とは摘みたての茶葉を加熱して、茶葉の発酵を止めた「不発酵茶」のことを指します。加熱の方法は2つで、煎茶や番茶、玉露など緑茶の大半は高温で蒸す「蒸し製法」です。もう一つは釜の中で撹拌させながら加熱する「釜炒り製法」。釜炒り茶が緑茶生産量に占める割合は僅か0.2%(全国茶生産団体連合会調べ:令和2年)と、現在では希少になっています。釜炒り製法は蒸し製法に比べて処理速度が非常に遅く、蒸し製法のように機械化による自動制御もできません。手掛ける産地が減少する中、熊本県の矢部茶は産地の生産量の約10%も釜炒り茶をつくり続けています。
 熊本県上益城郡山都町を形成する旧・矢部町は江戸時代以前から銘茶の産地として知られていました。当地は地形の起伏に富んだ中山間地で棚田も多く、少ない田んぼを囲む広い畦畔(けいはん:水田を囲う盛り土)に自生する山茶を植えていたそうです。各農家には茶葉を炒る釜があり、それで加熱した釜炒り茶を、熊本市内の茶商に売って家計の足しにしていました。
 当地で長年茶づくりに関わる渡辺憲治さんは「子どもの頃は自生した山茶を数キロ先まで摘みに行った」と語ります。朝に茶摘みをして、昼に茶葉を各農家が釜で炒る習慣が、昭和中期まで残っていたそうです。昭和40年代に入ると統一品種としてヤブキタの導入が進み、お茶の栽培は地域の産業として成長しました。現在まで伝統の釜炒り製法にこだわる理由を、山都町茶振興会 会長 中村賢一さんは次のように語ります。
 「さっぱりしていて香りが良い。例えば肉料理にも本当に合います。熊本県の中山間地はどこも釜炒り茶がはじまりです。お茶をよく知る特に高齢の方は『やっぱり釜炒り茶が良い』と言いますよ」。